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* なのはな・とれかけたボタン・恩人 *
大和
私はずっとまくわうりととなえていた。
黄色い甘みの弱いメロンらしい。まくわうり。まくわうり。午後の光が部屋をあたたかくした。
なにもかんがえられなくて、コタツでミルクティー。牛乳にティーバックをひたして砂糖をいっぱいいれただけのやつ。 別にのみたくてのんでるわけじゃない。なんか温かくなりたくて。
何もしていない事がたくさんの人間を裏切ってる、それはよく分ってた。でもまくわうり。こんな自分大嫌い。まくわうりも大嫌い。
とれかけたボタンを引きちぎった。コタツのうえにおかれたそれは、なんかすごくおいしそうで、指でつまんで唇にもってった。舌の上でなつかしい味がした。
今日、何曜日だっけ?
私にはこんなに沢山恩人がいるのに。眠いなあ。裏切ってる。ひどく眠い。何もせずコタツ、ゆっくり駄目な方に落ちてく音が聞こえる。 ボタンがのどのおくにすべっていった。びっくりしてミルクティーをたおした。
あーあ。
マンガ本をしめらす海。胃の中の異物感。どうしようもない焦燥感。立ち上がる。
台所になのはなのおひたしがあった。つまんで食べる。春の匂い。どこかに行かなきゃいけないのに。
「って感じのFAXがこないだ来たんだ。」
sai
古い日記帳を読み返していた。 日記をつけるのは小学校からの習慣で、と言っても毎日付けるだけのキチョウメンさは無く、 日々に何かしらの特筆すべきイベントが起こったときにしたためる程度だ。
古い日記帳は、自分の過去の全て。何の気なしにページを繰ると、妙にふくらんだ部分があることに気付いた。 はさまっていたのは、茶色く変色しパサパサに乾いた、小さな花。
何だ、この花?そう思いながら、日記に急いで目を走らせる。
あ。
ふっと、目の前に、あの日の花畑が広がった。
私には一年間だけ母親がいた。ずっと父子家庭だったのだが、父親が気まぐれのように再婚し、結果、 彼らが離婚するまで私には母という存在が居たのだ。その母親に私はよく懐き、 一緒に休みの日には出かけたりしていた。一面に広がる菜の花畑は母のお気に入りの場所でこっそり教えてくれたのだ。
『遊んでいたら、ワンピースのボタンがとれてしまって、おかあさんがソーイングセットで直してくれた』
ああ、思い出した・・・そして両親が離婚したとき、私はワンピースのボタンを自分で引きちぎったのだ。 そして、直してくれる人はもういないと悟った時、自分で針と糸をを持ち出し、 見よう見まねで取り付けてみたんだ―――結局、ボタンは取れかけたままのような、変な風についてしまって、 そのワンピースは二度と着る気になれなかった。
母は私に料理や掃除を教えてくれたが、裁縫だけは終に教わることがなかった。
「ママ、お風呂洗ったよー!」と息子が呼んだ。
今、こうして母になって、彼女は確かに私の恩師だったのかなと思う。 そしてさしずめ父親は私に母を一時だけでもくれた恩人というところか―――
私が、おかあさん、と呼べる人は、たった一人もいなくなってしまった。
だけど、あの一年間だけは、確かに存在していたんだ。
それだけでも十分幸せだ。
今日は日記をつけよう。
おかあさんのことを、書こう。
:補足:
いつどこで書いたものなのかは諸事情によりひみつです。(笑
ソフトドリンクを飲みながらふたりで向かい合って、とある制限時間の元でガリガリ書いたものです。
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