Remenber this Broken Evil

トレドル1ー流行の調査、始まりや原因、過程などの調査を請け負う。
    2−遺跡等に潜り、骨董品や金目のものを集めオークションに提出する会員

   総じて近代の情報学、超古代の考古学に詳しくないとなれない
   強靭な体力と精神力も必要とされる



 親にも友人にも素性を隠しながら、トレドルの仕事を始めて、もう三年の月日が流れた。
 私は大きくなって、刃の使い方も、盾の使い方も覚えたけれど。
 何故だろう…それが、卑怯だと感じる自分が此処にいる。

 虚しさを覚え、闇に堕ち掛けた私の前に、それは唐突に現れた。

−1−

「―此処は、なに?こんな所、資料にはなかったけど…」

 呟く声には、熱気が滲んでいる。
 おそらく、地下2000メートル位だろう…随分と降りてきたものだ。
 この、チェチェンイッツァの側にひっそりと佇んでいる遺跡に入ったのは一昨日の事だ。
 祭壇の裏に、崩れかけた階段を発見して、松明を手に、好奇心の許すままに下って来た。
 途中、幾つか踊り場があり、ちょくちょくと休憩を取りながら進んできたけれども…なかなか終着点は見えなかった。
 そして諦めかけて戻ろうとした頃、この広場に辿り着いたのだ―

「……!!これは…!」

 見つけたのは、鍵のかかった扉。
 鎖で厳重に封じられている…。
 そして扉には、真っ黒な羽を広げた雄雄しい悪魔と、古代文字が書かれていた。
 曰く、

―なんびとたりともこの扉を開くに値せず、なんびとたりともこの広間にたどり着く事値せず。
我、我の持つ最高の術をもってしてここに醜悪なる悪魔を封ずる。
彼の者、多大なる色欲をもち多くの者を惑わし、死に至らしめる。
なんびとたりとも、この扉、開け放つ事を禁ず―

「…………」

 色欲、と来たか。
 確かにそれは、この扉を開け放つのを戸惑わせるには充分な言葉だった…私にとっては。
 しかし、これほど厳重に悪魔の解放を拒む者が、あの階段を、私なんかが見つけられる程度の守りにしておくだろうか?
 入り口はぼろぼろに崩れていた。
 けど、此処には今まで何人ものトレドルが訪れているはずだ。
 それなのにこの扉が開け放たれていないのはおかしい。
 あんな崩れかけた入り口、子供だって見つけ出せるだろうに…
 一体、なぜ…

「………ま、いっか」


 とりあえず、興味を扉に描かれている悪魔に戻す。

「手付かずの扉なんて初めて…」

 やや緊張しながら、縦横無尽にかけられている鎖に触れてみる。

「……えっ!?」

 触れた瞬間、崩れ去る鎖。むせ返る錆びの匂い。

「なっ……なんなの……これ……」

 薄気味悪くなって、悪魔の絵をしげしげと見やる。
 その途端……平面のはずの悪魔が、にやりと、笑った気がした。
 そして、耳鳴りにも似た嫌な音を立てて、扉が開き始めた……

「……っっ!!」


 なんなのだろう、この遺跡は。
 人が入ったら、勝手に動くような仕組みでもあるのだろうか。
 だが、そんな物は見当たらない様に思える。

 一体何故、扉が開いたのか。
 本当にあの絵は笑ったのだろうか。
 触れるだけで朽ちた鎖ならまだ解る。
 この遺跡は相当に古い物なのだと、その位は解っていたから。

 そんな風に考えている間も、扉はギギ……と開き続けている。
 向こうに見えるのは、唯、闇ばかり。

「…………」

 固唾を呑んで、異常な出来事を見守るしか出来ない私。
 闇は着々と、その口を広げて、まるで私を飲み込もうとしているかのよう。

 ……何か、いる。

 そう、敏感な私の第六感が囁いた。

 ごくりと唾を飲み込み、静かに、ジャケットの内に忍ばせていたグロッグに手を添えた。

 ギギ……ギィ……キッ……

 耳障りな音が止んだ。
 気配は、更に濃くなっていて、私は今にも息が詰まりそうだった。

 もぞもぞ ごそごそ

 隠すつもりもないのか、その気配は明瞭に存在を誇示している。
 ならば。

「ふっ…………!!」

 独特の呼吸をし、一瞬とも言える僅かな時間で、私は扉の脇に移動した。
 ……音が近くなる。
 私に気付いていないのだろうか? それとも、私の事など端から気にしていないのか。

 ぎりっと歯噛みして、私は一歩、そこにある闇へと足を踏み出した。


 そして、私は、私の人生を変える「あいつ」との出会いを果たす事になる……



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